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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)2065号 判決

原告

伊藤美保

ほか二名

被告

株式会社リクウン

ほか一名

主文

被告らは、原告伊藤美保に対し、各自二七四九万六〇〇〇円及びうち二三四九万六〇〇〇円に対する昭和六一年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。 被告らは、その余の原告らそれぞれに対し、各自一一五四万八〇〇〇円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

この判決は、第一、二項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告伊藤美保(「以下「原告美保」という。)に対し、各自七八八七万円及び七〇八七万円に対する昭和六一年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、その余の原告らそれぞれに対し、各自三四九三万五〇〇〇円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六一年九月一六日午後八時三四分ころ

(二) 場所 宮城県志田郡三本木町伊賀字西伊賀六番地先東北縦貫自動車道上り線道路(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 大型貨物自動車(岩手一一か七四一九)

(四) 右運転者 被告阿部修一(以下「被告阿部」という。)

(五) 被害者 伊藤昭一(以下「亡昭一」という。)

(六) 事故の態様 加害車が、進行方向前方左側路肩部分に停車していた大型貨物自動車(宮城一一ゆ三三六一、以下「川崎車」という。)及び同車付近に佇立していた亡昭一、川崎徹、吉田助八の三名に衝突させ、右三名を死亡させた(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告阿部は、加害車を運転し、本件事故現場に差しかかつた際、指定最高速度が、毎時八〇キロメートルのところを毎時一二〇キロメートルで前方不注視のまま進行し、川崎車の手前一一・二メートルに至るまで気づかず、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告株式会社リクウン(以下「被告会社」という。)は、加害車を自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

亡昭一及び原告らは、以下のとおりの損害を被つた。

(一) 逸失利益 一億五九七四万円

亡昭一は、昭和二五年三月一九日生まれで死亡当時満三六歳であり、日本大学歯学部を卒業し、昭和五〇年歯科医師となり、本件事故当時東京都港区虎ノ門の株式会社ワイオリに勤務し、本件事故の前年に一四六三万五五二五円の給与収入を得ていた。亡昭一は、本件事故に遭わなければ、満六七歳までの三一年間は、右を下らない収入を得られたものであり、生活費控除を三割とし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニッツ方式で行うと、その逸失利益の現価は、次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

一四六三万五五二五円×(一-〇・三)×一五・五九二八=一億五九七四万円(一万円未満切捨て)

被告は、亡昭一の逸失利益の算定の基礎となる金額を歯科医師の平均給与額であると主張する。しかし、逸失利益算定は、性質上どうしても不確定性をともなうが、その際一番の基礎となる資料が、現実の、直近の収入額であることはいうまでもない。何らかの事情により、事故当時の収入の少なかつた被害者が、将来の収入増加の蓋然性を主張し、その立証をするという場合には、賃金統計の数字も意味があるかもしれないが、本件のように、現実の収入額が平均給与額を上回り、将来は開業も予定される腕のよい歯科医師に対し、右の低い平均給与額を加味する事実は全く存しない。

(二) 慰藉料

本件事故の無残な内容、本件事故後の被告らの被害者に対する非常識な対応、亡昭一が幼い二子の父であり一家の支柱であつたこと、歯科医師として、将来とも安定した生活が保障されていたのに一瞬にしてその期待を打ち砕かれたこと等に鑑みると、本件事故による亡昭一の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は、右金額が相当である。(なお、原告らは、遺族固有の慰藉料の請求をしない。)

(三) 相続

原告美保は、亡昭一の妻、その余の原告らは、亡昭一の子であり、右金額を法定相続分にしたがい、次のとおり相続した。

合計 原告美保 九四八七万円

その余の原告ら 各四七四三万五〇〇〇円

(四) 葬儀費

原告美保は、亡昭一の葬儀を執り行い、葬儀費用を支出したが、そのうち右金額を被告が負担するべきである。

(五) 損害の填補

原告らは、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から五〇〇〇万円の支払を受け、原告美保において二五〇〇万円、その余の原告らにおいて各一二五〇万円を前記損害に充当した。

(六) 弁護士費用

原告美保は、原告ら代理人に本件訴訟行為を委任し、横浜弁護士会報酬規定にしたがつて手数料を支払う旨約したが、そのうち右金額を被告らが負担すべきである。

合計 原告美保 七八八七万円

その余の原告ら 各三四九三万五〇〇〇円

よつて、原告美保は、被告らに対し、損害賠償として各自七八八七万円及びうち弁護士費用を除く七〇八七万円に対する本件事故の日である昭和六一年九月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告らそれぞれは、被告らに対し、同じく各自三四九三万五〇〇〇円及びこれに対する同じく前同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任原因)の事実中、被告阿部の過失のうち、前方不注視と川崎車に手前一一・二メートルに至るまで気がつかなかつたことは否認し、その余の過失は認める。被告会社が加害車の保有者であり自己のために運行の用に供していたことは認める。

3  同3(損害)の事実の認否は次のとおりである。

(一) (一)逸失利益のうち、亡昭一が昭和二五年三月一九日生まれで死亡当時満三六歳であつたこと、日本大学歯学部を卒業した歯科医師であつたことは認め、その余は不知。

亡昭一の逸失利益計算の基礎となる収入は、全国の歯科医師の平均給与月額五八万三三五三円によるべきである。なぜなら、亡昭一は、大学卒業後、勤務歯科医師、開業歯科医師、勤務歯科医師の順で歯科医師をしており、亡昭一は、開業していた医院を廃業している。その理由は詳かではないが、経営上の行き詰まりが原因とも推測される。亡昭一が本件事故当時勤務していた歯科医院での勤務期間は未だ約二〇ケ月と短く、その間の給与は逓減傾向にあつた。亡昭一の経済状況からして到底歯科医院を開業できるような状況にはなかつた。亡昭一は、将来も歯科医師を続けたであろうが、その形態は勤務歯科医師を続ける蓋然性が高く、また事故当時の勤務先で勤務を続ける蓋然性は低く、したがつて収入額は極めて不確定である。逸失利益の算定については、控え目に算定するのが確立した判例である。亡昭一が高額所得者であり、高額所得者の場合、税金を控除するか否かについて議論が存することからすれば、生活費控除は三割五分が相当である。そうすると、亡昭一の逸失利益は、次の計算式のとおりの金額とするのが相当である。

(計算式)

六九六万四〇二〇円×〇・六五×一五・五九二八=七〇五八万二五七一円

(二) (二)慰藉料は不知。一五〇〇万円が相当である。

(三) (三)相続のうち、原告らが相続人であることは認める。

(四) (四)葬儀費は不知。ただし、葬儀費用は総額で一〇〇万円が相当であることは認める。

(五) (五)損害の填補は認める。

(六) (六)弁護士費用は不知。

三  抗弁

過失相殺

亡昭一には、次のとおりの過失があり、その過失割合は、五割とするのが相当である。

本件事故現場は、自動車専用道路であり、その幅員は、路肩二・八メートル、走行車線三・六メートル、追越車線三・六メートルである。本件事故が発生した際、亡昭一は、普通乗用自動車(練馬五九ぬ四一六二、車幅一・六九メートル、以下「亡昭一車」という。)を路肩から二〇センチメートル走行車線にはみ出させて停車させていた。亡昭一車のすぐ後方に川崎車(車幅二・四九メートル)が、路肩から八〇センチメートル走行車線にはみ出して停止していた。右両車とも非常点滅灯を点灯しておらず、また、亡昭一も川崎も三角表示板を設置していなかつた。

亡昭一らは、川崎車の右後部タイヤ付近に佇立し、少なくとも走行車線内に一・四メートルから一・五メートル(川崎車のはみ出し八〇センチメートルに人が立つて足で物を蹴るのに要する幅を足した距離)入り込んでいた。

加害車は、川崎車の右後部右側から三〇センチメートルの部位に衝突し、亡昭一車の右側尾灯に衝突したものである。

亡昭一は、人の歩行横断が許されていない高速道路上にしかも高速で走行して来る車両にとつて物の発見がきわめて困難な夜間に車両の走行が許されていない路肩ではなく、高速で走行して来る走行車線上に立ち入り佇立するという危険きわまりない行動をとつていたのである。

しかも、停止車両に非常点滅表示灯を点灯せず、三角表示板の設置もしなかつたのである。高速道路の路肩に停止している車両の尾灯は、後方から進行して来る車両運転者にとつては先行する車両の尾灯と誤認しがちなものである。そのために路肩停止車両には非常点滅表示灯の点灯と三角表示板の設置が義務づけられているのである。

四  抗弁に対する認否

被告らの主張は争う。本件事故の発生につき亡昭一の過失は存しない。

仮に、何らかの過失があつて過失相殺するとしても、その過失割合は一割程度でしかない。

本件事故発生に至るまでの、被告会社の労働条件、被告阿部の運転者としての不適格性からすれば、本件事故は起こるべくして起きたものであり、本件事故後の被告らの極端な不誠実さも考えると、本件は、過失相殺をなすべき事案ではない。

1  被害者側の事情

(路肩への停止)

路肩は走行の許されない区域であるから、事故によりそこに停車することは過失と考えるべきではない。川崎車が走行車線に約八〇センチメートルはみ出していたとしても、川崎車の車幅及び路肩の幅員から考えれば、はみ出しはやむを得ないことであり、何ら非難の対象とはならない。亡昭一車にいたつては、川崎車の前方に停止していて、かつ、そのはみ出し幅もわずかに二〇センチメートルであり、何ら問題とするに足りない。

(三角表示板について)

川崎車が三角表示板を設置する等の警告措置を講じていなかつたことはあるが、川崎車が停止してから衝突までは約三五秒の時間的余裕しかなかつたのであり、そもそも亡昭一らには、右措置を講じるいとまがなかつたのである。

更に、亡昭一車については、川崎車の前方に停車しているのであつて、亡昭一自身が警告表示することは全く無意味かつ不必要であるから、少なくとも亡昭一には過失は認められない。

(走行車線内立入りについて)

亡昭一が走行車線内に立ち入つていたものではない。被害者三名のうち二名が川崎車右後輪付近に佇立していたということしか明確ではない。その二名にしても走行車線内に入り込んでいたのは、わずかな部分でしかない。また、二名に被害者がなぜ路上にいたのか、その事情を全く明らかでない。

2  加害者側の事情

(前方不注視)

本件事故現場は、ほぼ直線の下りから平坦部分で、見通しはきわめて良好であり、加害車の運転席は高く死角はなく、加害車のスリツプ痕は存在せず、川崎車はブレーキランプ、テールランプをつけており、加害者に先行する岩崎運転の車両は、後続車両のないことを確認しているので、被告阿部は、居眠り運転をしていたとしか考えられない。

仮に、居眠りでないとしても、それと同等の重大な前方不注視は明らかである。

(速度違反)

被告阿部は、指定最高速度毎時八〇キロメートルのところを一二〇キロメートルで走行していた。同人は、速度違反の常習者である。そして、速度違反について、捕まつても運が悪かつたという程度の認識しか持ち合わせていない。しかも、その速度違反の理由は、ギアチエンジが面倒であつたり、先に出発していた同僚に追いつこうとして急いでいたりというものであつて、到底職業運転手としての資格がない。本件事故を発生についての、被告阿部の直接の過失は、極端な前方不注視であるが、夜間の高速道路で、しかも自車は大型貨物車であるから、速度違反が危険きわまりないものであることは論をまたず、被告阿部が実に毎時四〇キロメートルもの速度超過で走行した過失は、本件事故発生の一因であり、二割程度には加害者側の過失を加重させるべきである。

(運転者適格)

被告阿部は、度重なる交通前科前歴を有し、今回事故の三日前までは免許停止中であつた。無免許運転と同視すべき不適格性が存する。

(先行車の動静)

刑事記録上三台の先行車が川崎車らの緊急停止に気づき、避譲して通過している。これらの車両は、いずれも毎時七〇から八〇キロメートルの速度で走行し、事前に川崎車らや被害者らの動静を発見し、避譲している。被害者ら(亡昭一であるかは明らかではないが)が路上に佇立していたことはさほどの意味を持たない。

(まとめ)

亡昭一には過失は存しない。

百歩譲つて何らかの過失が存在したとしても(亡昭一が路上に佇立していたかもしれない可能性を斟酌するとしても)、その基本的な過失割合を加害者側に加重修正する前記諸要素があり、それら加重要素は少なくとも四割以上とみるべきで、結局のところ、亡昭一の過失というものは何ら存しないものである。更に、本件では、事故を起こすに決まつている被告阿部のごとき運転手を承知で稼働させ、事故後もなお走る凶器をそのまま運転させたり、見舞いや示談交渉にもなんら誠意をみせない被告会社の落度、被告阿部の悪性といつた諸事情が多々存する。これらは、慰藉料の増額事由となるのはもちろんのこと、過失相殺を不相当とする事由ともなる(過失相殺の理念は損害の公平な分担であり、本件では過失相殺をすることは公平公正とはいえない。)。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実中、(一)のうち前方不注視のまま進行し、川崎車の手前一一・二メートルに至るまで気づかなかつた点を除いては当事者間に争いがない。そうすると、本件事故につき、被告阿部は、民法七〇九条による、被告会社は、自賠法三条による損害賠償責任がある(被告阿部の過失内容の詳細は過失相殺のところで述べる。)。

三  同3(損害)について判断する。

亡昭一及び原告らは、以下のとおりの損害を被つた。

1  逸失利益 九六二四万円

亡昭一が昭和二五年三月一九日生まれで本件事故当時満三六歳であつたこと、日本大学歯学部を卒業した歯科医師であつたことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実及び成立に争いのない甲一、二号証、原本の存在、成立ともに争いのない甲三号証の各一、二、乙一、三号証並びに原告伊藤美保本人尋問の結果によれば、亡昭一は、昭和二五年三月一九日生まれで死亡当時満三六歳であり、日本大学歯学部を卒業し、昭和五〇年歯科医師となり、本件事故当時東京都港区虎ノ門の歯科医院の経営管理、事務所地等の事務受託会社株式会社ワイオリに勤務し、埼玉県志木市所在の淡路歯科医院に勤務医として歯科治療に当つており、固定給及び一部歩合給のシステムで、本件事故の前年である昭和六〇年には一四六三万五五二五円の給与収入を得ており、事故年である昭和六一年の一月から八月まで八ケ月間の収入は、五八七万〇一二五円であり、原告美保及びその余の原告らの四人家族であり、その収入で生活していたことが認められる。

右収入の推移と、歯科医師の昭和六三年の平均年収は、右を下回る全年齢平均で六九六万四〇二〇円であること、歯科医師の収入が頭打ちであることその他の諸事情を考え合わせると、亡昭一は、本件事故に遭わなければ、満六七歳までの三一年間は、昭和六一年の年収換算額を下らない収入を得られたはずのものであるということができ、生活費控除率を三割とし(仮に、高額所得者についてはその逸失利益算定に配慮するという考えに立つとしても、右程度の年収では、特に高額所得者として配慮する必要を認めない。)、年五分の割合による中間利息の控除をライプニッツ計算法で行い、亡昭一の逸失利益を次の計算式により算出した。

(計算式)

五八七万〇一二五円÷二四三×三六五×(一-〇・三)×一五・五九二八=九六二四万円(一万円未満切捨て)

2  亡昭一の慰藉料 二四〇〇万円

本件訴訟に顕れた諸般の事情、特に、被告阿部の本件事故における過失がきわめて大きいこと、事故の結果がきわめて悲惨なこと、本件事故発生時以後の被告らの行動が常識に欠ける部分があること等に鑑みれば、亡昭一の死亡による同人の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料は右金額とするのが相当である。

小計 一億二〇二四万円

3  相続

亡昭一は、右損害賠償請求権を有するところ、原告らが亡昭一の相続人であることは当事者間に争いがなく、前掲甲一号証及び原告伊藤美保本人尋問の結果によれば、原告美保は原告の夫であり、その余の原告らはいずれも亡昭一の子であることが認められ、右事実によれば、亡昭一から、右損害賠償請求権を、原告美保は二分の一、その余の原告らは各四分の一を相続したものである。

小計 原告美保 六〇一二万円

その余の原告ら 各三〇〇六万円

4  葬儀費 五〇万円

原告伊藤美保本人尋問の結果によれば、亡昭一の葬儀は、亡昭一の父と原告美保が共同で行い、相当額の出費をし、そのうち、半額を原告美保が支出したことが認められるが、相当額の支出のうち一〇〇万円を被告らが負担するのが相当と認められるから、原告美保が被告らに請求しうる金額は一〇〇万円の二分の一である右金額が相当である。

小計 原告美保 六〇六二万円

その余の原告ら 各三〇〇六万円

5  過失相殺

(一)  前記争いのない事実、前掲甲二号証、成立に争いのない甲五号証から一五号証まで、一五号証から一九号証まで、乙二号証の五から八まで、一〇、一一、一三(甲一八、一九号証、乙二号証の六、七、一三については、後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、南北に通じる東北縦貫自動車道(自動車専用道路)であり、中央分離帯により上り下り線が区分されている。車道は、進行方向に向かつて左側から路肩(幅員二・八メートル)、走行車線(幅員三・六メートル)、追越車線(幅員三・六メートル)で、追越車線右側の外側線から中央分離帯まで一・八メートル(舗装部分〇・八メートル、芝生部分一メートル)となつており、上下線とも同一の道路構造となつている。本件事故付近は、古川(北方)方面から仙台(南方)方面に向けて左に湾曲しているが、その曲線半径は四〇〇〇メートルで、ほとんど直線であり、下り坂から平坦路をすぎて、上り一・七パーセント勾配にさしかかるところであり、アスフアルト舗装され、本件事故当時路面は乾燥していた。指定最高速度は、毎時八〇キロメートルに制限されていた。本件事故現場手前(古川方面)は、道路両側が路面より低くなつており、本件事故現場から仙台方面は道路両側は、切土法面となつている。付近には、道路照明はなく、暗い場所であるが、前方の見通しは、五六〇メートル程度手前から発見でき、きわめて良い(別紙図面参照)。

亡昭一は、亡昭一車(車幅一・六九メートル)を本件事故現場の古川方面から仙台方面に通じる道路路肩付近に停車させていた。亡昭一車のすぐ後方に川崎車(車幅二・四九メートル)が、路肩から八〇センチメートル走行車線にはみ出して停止していた。右両車とも非常点滅灯を点灯しておらず、また、亡昭一も川崎も三角表示板を設置していなかつた。亡昭一他一名は、川崎車の右後部タイヤ付近に佇立していた。

加害車は、本件事故現場道路を加害車(大型貨物自動車、車高三七九センチメートル、車幅二四九センチメートル、車長一一九五センチメートル、積載量九〇〇〇キログラム)を運転して、古川方面から仙台方面に毎時一二〇キロメートルの速度で進行してきたが、川崎車を五六五・一メートル先に発見したが、同車が停止しているにもかかわらず、走行しているものと速断し、そのまま、川崎車に注意を払わず進行したため、本件事故現場手前一一・二メートルの地点で、進行方向に前記のように川崎車の右後部が路肩からはみ出して駐車しているのに気づいたが、何らなすすべなく、川崎車及びその前方の亡昭一車に衝突するとともに、いずれも、道路上に出ていた亡昭一他二名にも衝突し、右三名を死亡させたものである(亡昭一の死因は、全身轢断という悲惨なものであつた。)。

以上の事実が認められ、甲一八、一九号証、乙二号証の六、七、一三中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右事実に徴すると、亡昭一は、人の歩行が許されていない高速道路上で、夜間に、車両が高速で走行して来る走行車線上に立ち入り佇立するという危険な行動をとつており、亡昭一車について非常点滅表示灯を点灯せず、三角表示板の設置もしなかつた点も過失があるというべきではあるが、しかしながら、被告阿部は、指定最高速度を実に四〇キロメートルも上回る毎時一二〇キロメートルの速度で進行していたものであるうえ、見通しのよい道路上にもかかわらず、川崎車が停車していることを直近で認識しており、このことは、常識では考えられない著しい前方不注視であり、その過失の程度は著しく大きい。

右過失を対比すると、本件事故の過失割合については、本件事故現場が高速道路上の事故であり、亡昭一の過失が小さいとはいえないとしても、被告阿部の過失が極端に大きいことから、亡昭一は二、被告阿部は八であるということができる。

(三)  右のとおり、亡昭一には本件事故の発生につき、二割の過失があるから、右損害にその割合で過失相殺をする

小計 原告美保 四八四九万六〇〇〇円

その余の原告ら 各二四〇四万八〇〇〇円

6  損害の填補

原告らは、自賠責保険から五〇〇〇万円の支払いを受け、これを原告美保において、二五〇〇万円、その余の原告らにおいて各一二五〇万円を前記損害に充当したことは当事者間に争いがない。

小計 原告美保 二三四九万六〇〇〇円

その余の原告ら 各一一五四万八〇〇〇円

7  弁護士費用 四〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告美保は、被告らが任意に右損害の支払をしないので、その賠償請求をするため、原告美保本人及びその余の原告らのために、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告らに損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

合計 原告美保 二七四九万六〇〇〇円

その余の原告ら 各一一五四万八〇〇〇円

四  以上のとおり、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告美保は、損害賠償として二七四九万六〇〇〇円及び弁護士費用を除く二三四九万六〇〇〇円に対する本件事故の日である昭和六〇年五月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害賠償金の、その余の原告らそれぞれは、同じく一一五四万八〇〇〇円及びこれに対する同じく前同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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